書評
—𠮷村長久,山崎祥光(編)—トラブルを未然に防ぐカルテの書き方
金倉 譲
1
1一般財団法人住友病院
pp.314
発行日 2023年3月20日
Published Date 2023/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407214066
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
本書を手にとったとき,『トラブルを未然に防ぐカルテの書き方』というタイトルに引き込まれました.普段から自分でもカルテの書き方に満足していないからです.序文には,編者の𠮷村長久氏が6年前に北野病院に病院長として赴任後,カルテ記載に問題のあるケースが多々あることに気付き,カルテ記載の教育・指導が不十分であったことを思い知らされたとあります.そこで,医師と弁護士の両方の肩書をお持ちで,もう一人の編者である山崎祥光氏に「カルテの書き方」の講演を継続的にしていただいたところ,「目からうろこ」の思いをした医師も多く,その反響の大きさから講演内容をまとめ,本書として全国の皆さまに届けることになったのです.
医師にはカルテの記載義務があります.人間の記憶は不確かで,20分後には4割,1時間後には半分以上忘れるとされており,診療したときに遅滞なく記載する必要があります.患者の状態や医療行為を時系列でカルテに記載しておくことにより,次の適切な医療行為が行えるのです.また,カルテは,医学上の資料となるだけではなく,会計上の原本にもなっています.さらに,重要な点は,カルテの記載内容が訴訟での証拠資料となることです.カルテに書いていないことは,事実認定されないのです.医療訴訟の事件数は年間800件を超えており,珍しいことではなくなっています.これらの案件では,和解や判決により6割前後のケースで被告側が何らかの支払いを要する結論が出ています.医療訴訟となった場合,審理期間は2年を超え,精神的にも肉体的にも疲弊します.
Copyright © 2023, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.