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(1)
生命の存する限り,生体の代謝は一刻も休止していない. 從つてこの代謝の問題は生理的條件下に於てのみならず,病態下に於ては尚ほ一層藥物療法や手術療法と同樣に重大である筈で,この方面の研究を無視したまゝ病態や治療を論ずることはいさゝか当を得ないと考えるのである. 周知の樣に生体の代謝には6つの要素即ち水,電解質,ビタミン,糖質,脂質,蛋白質が必要であることは申すまでもないが,これらの中,水や電解質は循環血量や心機能に顯著な影響を及ぼすため,その不足は特別な檢査をしなくても気付かれ,又補給も比較的容易であり,補給が合理的に行われゝば,それだけ効果は顯著であるため,少くとも吾々外科領域では実際問題としては不完全な点も絶無ではないが大体実用的に取扱われている. 又ビタミン,糖質の補給も容易で,且つかなりの充分量が與え得るのである. 脂質の非経腸的補給さえも最近少しづゝ成功しつつあるようであるが,一方生体には脂肪組織としての貯臟はかなり豊富であり,しかもこれをカロリー源として利用し,相当度消耗しても生体の生活機能には実際的の障碍をおこして来ない.
これに反し蛋白質は組織細胞の欠くべからざる構成材であり,言いかえると生活現象の基盤でもある.人体の臓器組織の構成に蛋白質が相当にあづかり,その全保有量はなる程極めて大量ではあるが,それは生活機能の遂行に不可欠な要素として存するものであり,蛋白質が一旦欠乏して来ると,右から左えとあたかもカロリーの不足を脂肪組織の貯藏が直ちにそれを融通してくれる樣な同じ性質のものではない.ビタミンCの不足が2〜3ヵ月間持続していてもビタミン数mgを数日間も補給すればこの欠乏の状態は直ちに正常に恢復せしめることは可能であるが,かりに蛋白質が500gm不足しておつたとしたら,250gm宛蛋白質を2日間補給すればその低蛋白の状態を克服し得るかと云うと,決してその樣なことはあり得ない.即ち蛋白質は生体にとつて極めて大切なものである反面,一旦これが欠乏して来ると,他の代謝の要素と違つてその取り戻しは仲々容易なことではない.尤も極端な饑餓の状態が持続すると,その最惡の事態に應じて或る程度止むに止まれぬ危急な要求として血漿蛋白や赤血球も合成せられたりすることを裏付ける動物実驗1)はあるにはあるが,日常,蛋白質を間断なく補給しておらねば,正常の生活現象は合理的に遂行出来ないのである.
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