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はじめに
ヒトの末梢神経機能を分析するための臨床神経生理学的方法としては筋電図法と神経電図法がよく知られている。このうち筋電図法は運動神経機能の解折に有用であり,運動単位(神経・筋単位)活動の観察からα連動ニューロン,α運動線維,運動終板,鍾外筋線維などの機能分析に広く用いられている。最近ではさらに単一筋線維筋電図法の開発により運動終板や単一筋線維のより詳細な機能解析も可能となつてきている。一方,神経電図法は感覚神経機能の分析に用いられてきており,感覚神経線維の興奮性の分析,伝導速度の測定などに応用されている。従来の神経電図法は粗大電極(針電極または表面電極)を用いて混合神経あるいは感覚神経の活動電位の総和を記録する方法のため,この方法により種類の異なる神経線維の活動を選択的に記録することは不可能であり,記録した活動電位がどのような種類の神経線維のものかを同定することも困難であつた。
これに対してスウェーデンでHagbarthとVallbo(1967)10,11)により開発された微小電極による神経電図法(微小神経電図法,microneurography)は複合および単一感覚神経線維の発射活動(インパルス)をその種類を同定した上で観察することを可能にした。したがつてこの方法の応用によるヒトの皮膚,関節,筋などの異なる種類の感覚受容器からの求心性神経発射の観察から,ヒトの体性感覚の末梢性機序を受容器と求心線維(感覚単位)の活動性の面から詳細に分析することが出来るほか,感覚受容器の遠心性支配についての分析も可能となる。たとえば筋受容器の筋紡錘を支配するγ運動ニューロンの機能をヒトで分析することは従来の方法では困難であつたが,microneurographyによる筋紡錘求心性発射の解析から筋紡錘を支配する動的と静的なγ運動ニューロンの活動性を知ることも出来る。このほかmicroneuro—graphyにより,従来の方法では不可能であつたヒトの交感神経節後遠心線維(C遠心線維)の発射活動の観察も可能なため,これまで効果器の反応性から間接的にのみ推定されてきたヒトの自律神経機能をより直接的に分析することも出来る。このように,microneurographyはヒトの末梢神経機能を分析するための新しい方法としてきわめて重要と思われるが,本稿ではまずmicroneu—rographyの歴史的展望について述べ,ついで著者の経験を中心に本法の記録法,もたらす知見,臨床応用と問題点などについて述べる。
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