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本誌に寄せられる原稿が年々質量ともに高まつてゆき,それがそのまま本誌の発展として表われている。ただいつも編集会議で話題になるのは,惜むらくは欧文抄録に欠陥のあるものの多いということである。構文の不備はもとより,綴りの誤りが目にあまる場合がよくある。なかには指導教授の名前がまちがつていて失笑をかつたことさえある。故布施現之助先生は門弟の論文を日本語なら5回,欧文の場合は8回繰り返し繰り返し検討されて朱を加えられたという。これはわれわれみずからを顧みても容易になし得るわざではなく,まして他人の論文にそれだけの態度でのぞまれたきびしさにただただ頭のさがる思いがする。それはそれ,よき時代の話,忙しい現代そんなことがと片づげる向きもあるかもしれないが,活字にして世に問うからには,慎重の上に慎重を期したい。この場合,読み返しの回数が問題なのではなく,要は心のもち方にあると思う。今後著者の手もとで十分お目とおしの上お送り頂くよう切にのぞんでいる。
フランスの小児科の教授がかつてこんなことを発言していた。主旨は「19世紀から20世紀の前半にかけては医学は細菌と戦つてきた。しかし,これは抗生物質の発見でおおかたげりがついた。20世紀の後半は癌との戦いが主な課題となろう。そして,その戦いに見とおしがたつたのちにくるものは,遺伝性疾患からいかにして人類を守るかということであろう」と。こまかなことはともかく,大きな見とおしとしてはそんなに的をはずれていない言といえよう。そういえば神経疾患にも遺伝によるといわれるものがかなりあり,そのため暗い一生を送る人々が絶えない。実に痛ましいことである。その反面,明らかに遺伝性でない疾患なのに巷間遺伝性とうわさされ,病む当人だげでなく親族縁者まで被害をこうむる例も少なしとしない。その意味で神経病と遺伝との関係は神経学にたずさわるものにとつてつねに真剣な課題であり,上記の発言は多くの示唆をふくんでいる。
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