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インスリン精神療法から薬物精神療法へ
前回の序章の中で,インスリン・サブコーマ療法を活用しての精神療法とそれにかかわる看護スタッフの役割について述べた。そしてまた,その際に,使命を感ずるあまりに,からだを張って看護に当たるのを職業行為として一般化するわけにはいかないとも記した。他方,インスリン精神療法終結後,せっかく良い効果が上がっていた症例の中で,依存欲求をめぐる現実的葛藤が再現し状態が逆転してしまうものも現れた。このような患者にはプロマジン型フェノサイアジン系薬物を使い保護的にケアすることでなんとか行動化などを鎮静する方法をとった。つまり,持ち越された治療的退行を解消し人格の統合を図るには比較的長く続く新たな治療的対象関係を準備することが必要であると思われた。
そこに,カナダのMcGill大学への留学から帰ってきた教室の寺島正吾さんが,「君と同じような考えの人がいるよ」と言って,ある別刷を下さった。それは,Azima, H. と,精神分析家でありまた多文化間精神医学を提唱したことで有名なWittkower, E. D. の共著によるAnaclitic therapy employing drugs1)と題する論文だった。その後,Azimaらのその他の論文も入手することができたが,彼らの方法は従来の持続睡眠療法を精神分析を併用することで修正したものであった。それは,①催眠剤とクロールプロマジンによって傾眠を導く,②自由連想,夢,空想を誘導する,③それらを解釈する,④ある時期,徹底的な保護的看護を行うといったものであった。それらは人格発達のごく初期の母親との共生的関係,あるいはその象徴的関係の再現を目標としたものであった。それで,彼らはこの治療を“anaclitic”(依存,依託)と名づけた。
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