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本号の特集は,先号に引き続き,「精神科臨床から何を学び,継承し,精神医学を改革・改良できたか」という本誌60周年記念特集の続編である。本号では統合失調症の画像研究,薬物療法,発達障害,災害精神医学について第一人者がそれぞれのテーマの過去,現在,未来について論じている。精神科臨床はゆっくりだが大きなうねりのように徐々に変革している。2〜3年を振り返っただけではどこが変化したのかが分かりづらいが,20〜30年を振り返ってみると精神科臨床が大きく変化したことが分かる。30年前はMRIがやっと臨床に導入され始めた頃であり,臨床検査といえば脳波が主流であった。最近は,器質性精神疾患の検査手段は豊富となり,一部の疾患を特異的に診断することができるようになった。30年前にはクロザピンはわが国の臨床に導入されてはおらず,ましてや非定型抗精神病薬すらなかった。ハロペリドール,クロルプロマジン,三環系抗うつ薬,ベンゾジアゼピン系薬剤が精神科治療の主流であった。これらの治療薬はたしかに効果的ではあったが,現在使われている新規向精神薬よりも副作用は強かった。ハロペリドール,クロルプロマジン,三環系抗うつ薬を使った処方は最近はみかけなくなった。自分が患者であったならば,これらの古い向精神薬を服用するのは躊躇するし,したがって,余程新規向精神薬が無効でない限りは患者さんにも勧められない。クロザピンは一部の患者では重篤な副作用を惹起することはあるが,大部分の患者ではむしろ副作用は格段に少ない。もっと安全性が高いクロザピンの後継品が開発されることが望まれる。昔は,児童精神科医の専門と思っていたので,筆者の発達障害に関する勉強は不十分であった。最近は成人の精神科外来でも診断が求められることが多い。児童精神科医ではないので発達障害を診断できないとは言いづらくなってきた。山崎先生がおっしゃるにように,「安易に診断して,発達障害を屑かご的診断にしてはいけない」。そのためには,すべての精神科研修医が発達障害を診断できる教育体制を構築しなくてはいけないと思う。精神疾患の病因が解明されるのが筆者の夢だったが,たとえ病因が解明されなくても,患者さんのためになすべきことはたくさんあり,それによって患者さんや家族が幸福になることを願っている。
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