巻頭言
自律神経失調症と精神科医
三浦 貞則
1
1北里大学医学部精神科
pp.912-913
発行日 1983年9月15日
Published Date 1983/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405203637
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患者の病歴を聴取したり,他科医からの紹介患者を診療する際に「自律神経失調症」という病名によく出合う。この領域には「心身症」もしばしば登場するが,先の日航機事件以来,社会一般に心身症に対する妙なイメージが生じたせいか,最近では自律神経失調症のほうが患者により受け入れられやすい用語になっているように思える。自律神経失調症については以前からその概念のあいまいさが指摘され,くずかご的病名ともいわれてきた。しかし今日のような広い普及には,心身相関に対する一般の関心の高まりをはじめとして,その背景にはさまざまな要因が考えられるだろう。最近の内科学の教科書はどれもこの病態の記述に多くの紙面を割くようになっている。ただ精神科医としては,このような動向にどのように対応するかに問題がなくもない。自律神経失調症は精神医学の辞書にはない用語であるが,その診断を受けてきた患者が精神科臨床の対象としてかなりの部分を占めるからである。
自律神経失調症の概念はもともとドイツ医学の流れから生れたもののようであるが,周知のようにわが国では,沖中のSympathikotonieとParasympathikotonie(Paratonie)が一時期大きな影響力を持った見解であった。最近の考え方の中では,阿部らによって提唱された「不定愁訴症候群」(=広義の自律神経失調症)が有名で,この不定愁訴という言葉は一般の日常語にまでなっている。
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