巻頭言
医療法改正の動きをめぐって
富井 通雄
1
1岡山県立岡山病院
pp.796-797
発行日 1983年8月15日
Published Date 1983/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405203620
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諸般の情勢からみると,今日の医療界は極めて重大な危機に直面している。医療に対する地域住民のニーズが必ずしも満たされていないばかりか,不祥事件や不正行為が相次いで摘発されて,地域住民の医療不信がますます募り,今更のように医の倫理が叫ばれるようになった。そのうえ,国家財政の逼迫や行革の旋風に煽られて,医療費抑制政策がとられ,医療経済の基盤が根こそぎ揺らいできている。
そのため,国公立病院といえども行革の旋風を避けられず,医療従事者も定数削減の聖域ではなくなった。莫大な赤字の要因となっている人件費削減のため,大看護単位制や夜勤専門看護婦制の採用,三交代制の見直しなどによって二八夜勤看護体制を守りながら看護者数を削減する方法,給食やハウスキーピング部門を民間委託する方法なども検討されている。さらに,私的病院の経営手腕を模範として企業努力するよう迫られ,医師でさえも削減の対象となった病院もある。そして遂には,精神衛生法によって設置を義務づけられた都道府県立精神病院そのものの管理運営を民間に委託しようとする動きさえもみられた。その動きの根底には,精神医療に対するマンパワーの必要性についての認識不足もあるが,多数の職員数を抱えながら,提供している医療は民間病院と大差がない,否むしろ軽症者ばかり扱っている,職員は怠慢で,休暇をとって遊んでいるといった非難も与かって力があったかのようである。いずれにしても,国公立病院はその公共性と企業性とについて改めて厳しく間い直されている。
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