巻頭言
ある精神科医の嘆きと怒り
錦織 透
1
1京都府立洛南病院
pp.98-99
発行日 1971年2月15日
Published Date 1971/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201704
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いつも私の念頭にあることであるが,精神医療は一体なぜ,こうも特殊で低格な医療として一般医療から差別されねばならないのであろうか。リハビリにせよ,一般医療では国公私立を問わずすでに各地に専門病院が活動しているのに,精神科に限ってせいぜい精神病院の優等生である“回復者のセンター”が医療の外で発想されているなど卑近な一例である。
医療法はいう“病院は傷病者が科学的で,かつ適正な診療を受けることができる便宜を与えることを主たる目的として……”と。もし精神病院が,この規定どおりに運営されていたとしたら朝日ルポによる.いわゆる「告発」など,むろんあり得ないはずであったが……。50年代後半以降,薬物療法は相次ぐ向精神薬の開発につれて病院の体質改善の路線を開き精神医療はあたかも科学的で,かつ適正な診療の方向に向かうかにみえた。しかしこれが全くの幻想にすぎなかったことは“薬漬け”のごとき,およそ科学的で適正な診療にはふさわしからぬコトバが精神科医達の間で語られていることからも察知されよう。
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