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西山詮氏が本号前論文に「精神科医にとって犯罪学とは何か」と題する論文を発表された。それにともない,本誌の編集部が私にこの論文に対する意見を書いてほしいと求めてきた。西山氏は私の後輩であり,同じ研究仲間であり,優れた新進気鋭の学徒であるので,編集部のこの求めに応ずることには,きわめて強い抵抗を感ずる。しかし,この論文が私の恩師吉益教授の犯罪学を批判しており,その批判に当を得ないところが確かにあると思われるので,どうしてもその点だけは指摘しておかねばならない。以下にあくまでも客観的に私の意見を述べたい。
西山氏によれば,吉益がその「犯罪学概論」の序文で述べているように,その犯罪学は狭義の犯罪学であるというが,「犯罪心理学」や,「犯罪学概論」の本文で述べているところでは犯罪の現象と原因の学のほかに犯罪の防遏の学をも包含しているので,相当に広義の犯罪学と考えられるという。つまり,吉益はその犯罪学は狭義の犯罪学であると称しているが内容的にはかなり広義の犯罪学を考えているという矛盾を指摘している。これは,つぎのように考えるならば,少しも矛盾ではない。犯罪学には従来からおよそ二つの大きな系統があり,一つは狭義の犯罪学の概念(Fr. v. Liszt)と,他は広義の犯罪学の概念(H. Grossに発しE. Seelig)である。狭義の犯罪学は犯罪の現象と原因の学であり,西山氏も述べているように犯罪人類学(犯罪身体学),犯罪心理学,犯罪社会学を包括するものである。広義の犯罪学は狭義の犯罪学のほかに犯罪の防遏の学として採証学,刑罰学などを含んでいる。吉益は,「犯罪心理学」や,「犯罪学概論」の本文のなかで,犯罪学の概念としてSeeligの広義の概念をとりあげて紹介している。そして,「犯罪学概論」の本文1頁には,広義の犯罪学の体系のなかにふくまれている「犯罪の現象と原因の学」という標題の下には括弧して「狭義の犯罪学に当る」と明記している。
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