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特集 心気症をめぐつて
第5回日本精神病理・精神療法学会大会シンポジウムより
主題演者
いわゆる災害神経症の精神力学と心気症について
Psychodynamics and Hypocondriasis of Accidents Neuroses
佐々木 時雄
1
Tokio Sasaki
1
1関東労災病院神経科
1Dept. of Neuropsychiat., Kanto Rosai Hosp.
pp.346-349
発行日 1969年5月15日
Published Date 1969/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201471
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いわゆる災害神経症を精神療法的観点から最初にとりあげたのはWeizsackerである。彼は症状の表面的観察に留まらず,患者個人に内在する神経症的葛藤に着目しその葛藤は,己れ自身の人間的価値に関して患者が被害を蒙つていると感じ,自らそれを回復し保持しようとすることがらそのものに根ざしていると考えた。ここでいう人間的価値とは,生存を欲することを当然の権利として要求することが動機となつている特有の権利価値のことであり,この権利を保持し行使しようとする意欲が患者をして賠償闘争に駆り立てているのであると,Weizsackerは論じたのである。彼は,Freudのリビドー理論を肯定しなかつたが,しかしその方法論的意義を認め,転移,逆転移の治療において果たす重要な役割を強調した。とくに彼は逆転移のもたらす治療的弊害を問題とし医師は災害神経症患者を神経症患者として治療すべきであつて,物質的にであれ,精神的にであれ,医師が賠償闘争の行末に関わり合いを持つことを厳に戒めているのである。
上述したWeizsackerの見解は1929年に発表されたものであるが,それが今日なお斬新なものとして映るのは,災害神経症の本質の解明が治療的観点からなされるべきであつて,単なる診断学的水準では問題の解決が得られないことを指摘しているからである。現在においても諸家の多くが災害神経症即賠償神経症といつた先入見をもつていることは否定できない。
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