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労働問題などについては,あたかも無風帯にあるがごとく思われていた精神病院にも,近年ぽつぽつ労働争議がもち上るようになつた。そしてこの傾向は年を逐うて烈しくなるような様相をおびてきており,関係者の間にも漸く真剣に労働問題をとり上げようという気配が見える。日本精神病院協会でも,昨年12月3日の総会で,精神病院における労働争議の問題を検討したが,席上多くの人の意見は,直接患者の生命にも関係することであり,公安上危険の多い精神障害者を拘束し診療している精神病院において,従業員が病院の診療,看護,給食,管理を妨害し,あるいは停癈することは,病者の生命を危険に陥れ,また公安維持の立場からも憂慮すべき点が多いので,精神病院における争議行為には,大幅な制限をすべきであるという点で一致し,これを総会の決議として関係当局へ陳情することになつた。そして本年早々理事者の間で次のような決議文,『私立精神病院における同盟罷業,怠業など,人命尊重の精神に反する争議行為を禁止し,争議に代え,労働委員会の強制仲裁制度を設け,その決裁を遵守せねばならないこととし,人命の尊重と公安の維持とが保障されるよう,法律の改正または制定をするよう,この決議文と理由を付し,国会に請願し,政府に陳情し,また医療関係団体と連絡し,その実現を期することを緊要と認む。』が作られ,関係方面に陳情している。精神病院における争議行為と労働関係調整法36条(工場事業場における安全保持の施設の正常な維持または運行を停癈し,またはこれを妨げる行為は争議行為としてでもこれをなすことはできない。)との関係,つまり私立精神病院の従業員が,他種の企業と同様争議行為が出来るか,出来ないかの問題については1つの事例がある。
昭和30年8月,愛媛県の新居浜精神病院の争議の際,同病院理事長藤田靖氏が,労調法36条の解釈について,精神病院の特殊な使命業務にかんがみ,病院の従業員が,医療,看護,給食などの業務を停癈し,またはこれを妨げる行為をなすことは,患者の生命を危殆ならしめるものであつて,労調法36条に抵触し,禁止せらるべきではないか,との質問を,県知事を介して労働省に提出しているが,これに対して,労働省労政局長から県知事宛以下のような回答がなされている。
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