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はじめに
統合失調症は,主に特徴的な精神症状とその持続期間,そして器質性精神障害の除外により診断される精神疾患である。近年,本疾患において認知機能障害の側面が注目されるようになってきた背景としては,病態研究の進歩と認知機能障害の臨床的意義があると思われる。
統合失調症における脳の変化については,1911年のE. Bleuler6)の古典的名著でも,脳過程(Hirnprozess)として論じられていたが(第10部第2章疾患の理論),その実体は,長い間ほとんど全く不明であった。1970年代半ばから,CT,そして1980年代後半からは,MRIを用いた精力的な研究により,統合失調症患者群では,健常対照群に比べて前頭-側頭-辺縁・傍辺縁系に軽度の体積減少が生じていることが明らかになった。このような脳構造の変化に対応して,認知神経心理学的機能にも変化があるであろう,というのが統合失調症の認知機能の研究が活発になってきた大きな理由と思われる。ただし,構造画像で認められる脳灰白質の体積減少は,患者群と健常対照群との平均値の差であり,どの脳部位をとっても,重なりが大きい。したがって,従来の神経心理学が対象としてきたような,1例における肉眼的にも明らかな局在的脳損傷とは異なることに注意を要する。
もう1つの理由として,認知機能障害の臨床的意義がある。1990年代以降の研究により,認知機能障害は精神病的症状よりも機能的,あるいは社会的転帰に関連することが明らかになってきた。そうであれば,治療の目標としても精神症状と並んで,あるいはそれ以上に認知機能障害が重要となってくる。
しかし,統合失調症における認知機能障害の位置づけについては,本疾患が器質性精神障害に属さないことから,懐疑的な見方もある。そこで本稿では,統合失調症に認知機能障害はあるか,認知機能障害の臨床的意義,認知機能障害の神経生物学的背景,治療による改善可能性,そして臨床応用について述べることにしたい。なお,統合失調症の認知機能については,神経認知に加えて近年社会認知も研究対象になっているが,本稿で述べるのは主として神経認知機能についてである。
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