巻頭言
Plus Ultra
三村 將
1
1慶應義塾大学医学部精神神経科
pp.1038-1039
発行日 2011年11月15日
Published Date 2011/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405102016
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今年5月,久しぶりにポルトガルのリスボンに行く機会があった。リスボンの郊外には,ユーラシア大陸の最西端であるロカ岬があり,風光明媚の地である。ここは18年前にも一度訪れたことがあった。眼前に果てしなく広がる大西洋,抜けるような青空と春の陽光,咲き乱れる色とりどりの花々,何一つ以前と変わりなかった。この岬には,ポルトガルの詩人ルイス・デ・カモンイスによる“AQUI…ONDE A TERRA SE ACABA E O MAR SE COMEçA…(ここに地終わり海始まる)”という碑があることでも有名である。宮本輝の同名の小説があることでご存じの方も多いかもしれない。この碑の前に立ってはるかかなた西方を臨むと,ただただ海が広がっており,その先の水平線もおぼろげである。
いにしえのヨーロッパの人々は大西洋と地中海の境にあるジブラルタル海峡が世界の西の果てだと考えていた。そのジブラルタル海峡を北のスペイン側と南のアフリカ側からはさむ狭い切り立った崖は,ヘラクレスの柱と呼ばれている。神話によれば,ヘラクレスによって建てられたとされるその柱には“Nec(Non)Plus Ultra(この先はなし)”という文言が刻まれており,世界の終わり,果てを示していたという。その先の海は無限の闇へと落ち込んでいると信じられ,船員たちがそれ以上進まないための警告として役立っていた。
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