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巻頭言としてご紹介いただいたように,大変なご苦労の中で精神障がい者の地域支援・地域移行が長年にわたって粛々と進められて来ていることに対し,関係の諸氏にこころからの敬意を表します。しかし,残念ながら精神医療全体でみると,地域移行をどう進めるのか,移行後の医療ニーズにどうすばやく対応する仕組みを作るのかといった切実な課題に手を拱いている状況が続いていると言わざるを得ません。がん医療を考えると,昭和30年代の国立がんセンターの設立と対がん10ヵ年計画の継続的な遂行,がん特という,高額な科学研究費の支給などに支えられ,目覚しい発展を遂げています。そのうえ,昨年がん対策基本法を制定し,都道府県のそれぞれの二次医療圏ごとにがん拠点病院を設けて,ここではサイコオンコロジーも必須と認められています。精神医療も「精神疾患対策基本法」を制定し,すべての地域の二次医療圏ごとにソフト救急対応ができ,地域移行した障がい者とその家族・支援者が安心して生活し,必要な医療を受けることができ,就労に結びつくように対策が推進されることを望まずにはおられません。
また,本号のシンポジウム「ストレスと精神生物学」はPTSD,海馬,脆弱性,脳画像解析をキーワードに精神医学研究者の地道な研究の成果がまとめられていて,読み応えのある内容になっております。ところで,脳科学の基礎の研究者は10年前までは器質的異常がはっきりしている認知症しか研究対象としておりませんでしたが,最近では統合失調症,感情障がい,自閉症やADHDなどの病態解明を目指した研究に本気で立ち向かうようになっております。したがって,基礎の研究者と同じことを臨床の研究者がするよりも,両者が連携して研究を進めるなかで,臨床の研究者は臨床の発想で研究するのがよいのではないかと思います。PTSDでは,記憶にまつわる感情の変化で記憶の書き換えが起こり,PTSDが軽快することは臨床的によく経験することですので,精神療法によるPTSDからの回復過程を薬物療法と比較しながら脳画像や脳機能検査で明確にするような研究にシフトすることも必要ではないかと考えております。
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