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かつて恩師から「分裂病と感情病との間で生物学的に本質的な差異が見出されるかどうか,あるとすればそれは何かを究めること」を指示され,「それがわかると,全く新しい段階に入ることになる」と励まされました。生物学的に本質的な差異を明らかにするためのアプローチの一つである「統合失調症と感情障害の補助診断法」が今月号の特集として取り上げられたことは感慨深く,最も活発に活動している研究者の方々に執筆していただくことができたことに本当に感謝しております。ここで紹介されている研究データに馴染みがなく,取っ付きにくい印象を持たれる読者の方々にも,アイカメラによる探索眼球運動時の注視点の解析や語流暢性課題時の近赤外線スペクトロスコピーによる酸素化ヘモグロビンの反応パターンの解析により,統合失調症と感情障害とが高率に判別可能となりつつある現状はご承知いただけるのではないかと考えておりますし,これらが臨床経験に基づいて解析機器を開発・改良してきた,日本のオリジナルな研究であることも知っていただきたいと思っております。
しかし,実際の臨床での診断や経過判定は,専ら面接による症状評価によって行われており,まだこの特集で明らかにされつつある種々の生物学的所見を利用するところまではいっておりません。そこで,生物学的指標に基づいた診断法や経過判定法に関するエビデンスを多施設において集積していくことが次の段階であり,そのためにはMRIなどの機種間の相違を乗り越えて解析できる方法を検討し,異なる機器でのデータを比較できるようなソフトの開発を目指す必要があります。また,臨床検査としては脳波しか認められていない現状を打破して,生物学的検査法の精神疾患への保険適応を目指すことも必要であると思います。
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