Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
統合失調症が当初「早発性痴呆」と呼称されていた時代には,予後不良でもって他の精神疾患,特に気分障害(当時の躁うつ病)と識別されていたのは周知のことである。それが,精神分裂病(群)に変わっても,急に予後にかかわる状況が大きく変わったとは必ずしも言えなかった。もちろん,それ以前に比較すると,概念的に見ても「予後不良」という特徴が前面に出なくなったことは好ましい兆候であった。
さらに今回,新たな日本語呼称に変わったことが臨床経過や予後にいかなる変化をもたらすかはもちろん極めて興味ある話題であるが,その結果を確認するにはこれより数年を経てからのことになるであろう。そこで,ここでは臨床経過および予後にかかわる近年の情報を紹介し,その傾向をうかがってみたいと考える。
今回のテーマについて考えようとするとき,まず予後(prognosis)と転帰(outcome)という用語について触れておきたい。なぜなら日本においては精神科領域だけでなく,この二つの単語がしばしば混同されているからである。しかし,英語圏では,予後を「疾病の罹病期間・経過・終了時点の将来像にかかわる見解ないし判断」(Gould's Medical Dictionary, 5th ed., 1945),「‘foreknowledge'を意味し,疾病の発来によって生じうる結果に対する予測,事例の本態や症状に表された疾病の回復についての予見」(Dorland's Medical Dictionary, 23rd ed., 1957),「ある疾病の経過・転帰・罹病期間についての予見又は予測であって,疾病の経過中になされる見解」(Hinsie & Campbell Psychiatric Dictionary, 4th ed., 1970),「疾病の経過・展開・転帰について生じうる直後ないし将来像に関する意見」(Synopsis of Psychiatry, 6th ed., 1991)などと記載しており,日本語圏でも草間悟は「医学研究発表の方法」(南江堂,1981)において,「ギリシャ語のpro;予め,およびgnosis;知る,からなり,未来についての予想」であるとし,そこには①生命の維持に関する予後,②機能に関する予後,③治癒に関する予後,そして④経過に関する予後の4種があるなどと明記している。このように記載されていることからすると誤解は生じそうにないが,実際には「XX年間の入念な臨床観察の結果得られた知見」であるにもかかわらず,例えば「XX年調査後の予後」といった形で報告されることが多く,なぜその時点でも予後のレベルだという判断にとどまるのか理由がわからないのである。
今一つ転帰,特に長期転帰を考えるという時,その結果をいかに解釈するかは必ずしも容易でない。ただ,このことが,ここで話題にするテーマであるのかもしれない。ある研究グループが一連の研究を行っていく場合,追跡調査を展開する中でさまざまな情勢の変化は起こってくる。例えば,20年間ないし30年間にわたる長期的な調査研究であれば,その間に心理社会的または社会文化的環境には変化が生じうるであろうし,疾患概念あるいは診断概念の変化や相違があり得るし,診断法・治療法や対処法の発展も大きく認められるはずである。もちろん,いかなる事例が調査対象となっているか,いかに経過が把握されたかなども解釈に影響してくる。場合によっては,転帰の基準を臨床症状においたのか,社会機能においたのか,あるいはその両者を平均したのかなども重要な話題である。いくつかの研究を比較する時には,これらに加えて,評価基準の有無,追跡調査期間の長さについても比較可能性を明らかにしておく必要がある。同じ研究グループでも,同一の研究者が永年にわたって関与できるとは限らないので,次の世代の研究者に伝達されていく中で,たとえ同じ基準で評価しているつもりでも多少のずれが起こってくることも知っておくべきであろう。これらのことを前提にして,研究結果を比較検討していくということになろう。
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.