巻頭言
人工呼吸器は無くなるのか
天羽 敬祐
1
1東京医科歯科大学医学部麻酔学教室
pp.591
発行日 1987年6月15日
Published Date 1987/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404205068
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「……ある大都市のホテルで大きな火災が起こった。多数の受傷者が発生して病院に運ばれたが,その大多数は有害な煙と高熱ガスを吸入したための急性呼吸不全である。病院の医師は,これら呼吸不全患者の足の静脈からカテーテル様のものを挿入し,その先端を心臓近くの太い静脈にまで押し込み,それからそのカテーテル様の装置に酸素源を接続した。この小さな装置がダメになった肺の代わりを務めるのである。つまり血液を直接酸素化し,炭酸ガスをとり除くわけである。ベンチレーターによる人工呼吸と違って損傷された肺はそのまま1〜2週間全く安静にされている。ナースは一般的な看護を行い,この装置がうまく動いていることをモニターで確かめるだけである。患者は通常の治癒期間の約半分の時間で家に帰ることができ,1960年代の同様の患者に比べると,治療費は約半分である。
この装置はこのような煙や熱による急性呼吸不全だけでなく,以前ICUで行われていたいろいろな人工呼吸や侵襲の大きなECMOに代わって,重症肺炎,ARDS,未熟児呼吸窮迫症候群,重症インフルエンザなどに使われている。以前使われていたあの高価な人工呼吸器やECMO装置は一体何処へ行ってしまったのだろうか。それらはもはや粗大ゴミとして病院の地下室に放置されているのである……。
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