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はじめに
本誌では,これまで1993年(第28巻9号「虚血性腸病変の新しい捉え方」)と2013年(第48巻12号「虚血性腸病変」)に虚血性腸病変に関する特集が組まれている.過去2号の特集において“虚血性腸炎”ではなく“虚血性腸病変”という用語を用いたのは,Boleyら1),Marstonら2)が提唱した“ischaemic colitis”を直訳した場合の“虚血性大腸炎”と区別することや,血流障害に起因して発生する虚血性・壊死性変化に対して“腸炎”といった名称を当てはめるのは必ずしも適切ではないと考えられること3),血流障害が主因となって腸管に炎症を生じるさまざまな疾患を包括的に取り扱う意図があったのであろうと推察する.
ところで,虚血性腸病変とは血流障害が主因となって腸管に炎症を生じる疾患の総称4)と定義可能であるが,全身の循環障害に起因するもの,腸間膜血管レベルあるいは腸管壁血管レベルでの循環障害に起因するもの,さらには動脈側,静脈側,あるいは両側の細小血管の障害に起因するものなど,血流障害にもさまざまなレベルのものが存在する.また,血流障害の原因も血管自体の炎症によるものや,薬剤や細菌毒素による血管攣縮惹起,放射線照射に伴う動脈内膜炎による血管壁肥厚,血管周囲の沈着物など多種多様である.加えて,虚血性腸病変の形成には,血管側因子だけでなく便秘などによる腸管内圧上昇や蠕動運動亢進などの腸管側因子が絡み合って発症する場合もある.さらには,炎症性腸疾患において組織炎症の結果生じる血管破綻も,大なり小なり腸管病変形成に関与すると考えられる.このように考えていけば,腸管障害を形成するすべての疾患が虚血性腸病変の範疇に含まれるとしても決して間違いではなく,その疾患概念は混沌としたものになってしまう.
前回特集号から10年超を経た今回の特集号は「虚血性腸病変を整理する」ことをテーマに掲げた.Fig.1に虚血性腸病変に包括される各疾患を,障害血管部位,血管閉塞の有無,血管側因子と腸管側因子の寄与度を念頭に置きながら筆者なりに位置付けてみた.なお,今回は虚血性腸病変の疾患概念を整理することを目的としていることから,腸管炎症といった腸管側因子の結果二次的に生じた血流障害が病変形成に関与すると考えられる炎症性腸疾患は除外した.
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