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早期大腸癌に対する根治を目的とした内視鏡治療の適応は,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の普及により大きく拡がった.なかでも,局所切除のみで根治可能なTis癌の中には,腫瘍径や形態から腸切除を余儀なくされた症例も存在したため,これらの症例ではESDの恩恵を享受することが可能となった.一方,浸潤癌であるT1癌の治療原則は従来リンパ節郭清を伴う腸切除とされていた.そのため,内視鏡治療による完全摘除が可能であった症例でも追加腸切除が勧められたが,T1癌におけるリンパ節転移率は約10%であることから,リンパ節郭清を伴う腸切除が追加されても多くの症例では癌の遺残を認めない事実があった.そのような臨床経験を背景に症例集積研究が積み重ねられ,T1癌における所属リンパ節転移リスク因子としてSM浸潤距離,脈管侵襲陽性,低分化腺癌・印環細胞癌・粘液癌などの組織型,浸潤先進部の簇出などが抽出された.これらのリスク因子は2014年版の「大腸癌治療ガイドライン」において内視鏡的摘除されたpT1癌の追加治療の適応基準として採用され,SM浸潤距離に関しては1,000μmが基準ラインとされた.2019年版の「大腸癌治療ガイドライン」においても追加治療の適応基準に関する変更はなされていない.しかし,大腸癌研究会のプロジェクト研究ではSM浸潤距離1,000μm以上のT1癌リンパ節転移率は12.5%程度であったこと,超高齢社会という本邦の社会的状況とも相まって低侵襲治療の重要性が強調されているなどの背景因子を考慮すると,内視鏡治療技術の進歩に伴い早期大腸癌においても治療適応拡大の妥当性が論じられることは当然の流れであろう.
本特集号はT1b癌に対する内視鏡治療適応拡大の可能性を見据えて,①適応判断に必要な術前画像診断,②完全一括摘除を完遂するためのESD技術,③リンパ節転移リスクの正確な層別化のために必須となる切除標本の正しい取り扱い方と病理組織診断,の3つの重要な要素を設定し,各部門のエキスパートの先生に執筆いただいた.いずれも本特集のテーマに見合った力作であり,T1癌に対する新たな治療ストラテジーの妥当性をさらに検証していくうえで示唆に富む内容となっている.
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