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大腸腫瘍性病変の病理診断は大腸腫瘍の分子異常の解明の進歩に影響されており,従来の病理組織学的所見のみに依存した病理診断から分子異常も加味した分子病理診断へと変容してきている.WHO分類も改訂され,分子異常の記載が大幅に増えていることもそれを裏づけているように思われる.しかしながら,病理診断がHE染色標本に基づいた病理組織学的所見によって行われるという基本的姿勢に変わりはない.病理診断は主観的判断によりなされるが,これまで多くの先人の努力により客観的な指標の導入が試みられてきた.先に述べた分子病理診断もこれらの先人たちの努力の上に成り立っていることを忘れてはなるまい.
本特集は3つの主題で構成されている.一つは“大腸粘膜内癌の診断基準と問題点”というタイトルで小嶋基寛先生にご執筆いただいた.本邦では粘膜内癌を上皮内癌と固有層浸潤癌に分離しているが,欧米ではこの分離があいまいで,両者を厳密に区別する基準はない.確かに孤立癌胞巣の形成とdesmoplasiaの形成以外は客観的な基準の指摘はされておらず,これらの所見のみでは固有層浸潤を過小評価することになるとの指摘がなされている.しかし最近の傾向として十分なコンセンサス形成までは至っていないものの,不規則な癌腺管の分岐や高度な乳頭状変化を固有層浸潤とみる見解も有力になっている.また高グレード腺腫と上皮内癌の鑑別も病理医による差異があり,十分な合意形成はされていないのが現状である.しかし,異型判断が主観性を排除できない以上,病理医によって判断が異なるのは当然とも言える.両者の判断が異なっても臨床的な対応には影響を与えないので,実務においては病理医が考えるほど深刻な問題ではない.要は病理医が自らの診断基準を臨床医(特に内視鏡医)に提示することと従前用いていた診断基準を根拠も示さず変更しない姿勢こそが重要である.加えて本論文では癌細胞のコピー数変化が癌の進展に質的な影響を及ぼすことを指摘しているが(コピー数変化のボトルネック作用),これは従来の筆者らの主張を支持する考え方である(Sugai T, et al. Oncotarget 9:22895-22906, 2018 ; Eizuka M, Sugai T, et al. J Gastroenterol 52:1158-1168, 2017).染色体上の変化は大腸腫瘍の良悪性の鑑別に有用と思われ,今後の検査化指標への発展が期待される.
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