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昭和が50年になる.たとえこの間に敗戦があったとはいえ一代の天皇の年号が50という数を数えうることは,そう常にはないことであろう.それにあやかるように,「胃と腸」も足掛けやっと10年の10巻1号を出すにいたった.この雑誌の編集に初めから携わった者の一人として感無量である.しかも有難いことに同好の士は未だ増え続け発行部数も増加の一途を辿っている.そのお蔭で,値上げばやりの数多い医学雑誌のうち,本誌は最も値上率の低い雑誌になることができた.
実をいうとこの雑誌を創刊する当時はこのような企てが果して世に受けいれられるかどうか大きな危懼があった.何故なら,その直前,ほとんど同時に消化器系の雑誌が2種類も売行き不振のために廃刊になったばかりであったからである.しかし私どもは実をいうと余りそうした社会的というか,経済的というか広い観点を持ち合わせてこの企画をたてたのではなかった.ただひたすら毎月の早期胃癌研究会にいろいろな施設から持ち寄られる症例の面白さに酔っていたというだけに過ぎない.今でもそうであるが,ほんとうにその頃は供覧されるすべての早期癌症例が常に何らかの教訓を含んでいた.したがってその一枚のレントゲン写真や,一コマの胃カメラの写真――当時はまだファイバースコープは高嶺の花であった――に,そのスライドをスクリーンに一回写しただけで,そのまま忘れさって了うのは余りにも勿体ないという愛惜の念を禁ずることができなかっただけに過ぎない.これらの資料を何かの形で記録に止めたいというので,まずその掲載をエーザイで発行しているクリニシアンへ依頼することを考えた.しかし恐らくそれは広報誌という制約の為であろうが不可能であると知らされた.カラー写真が多くなるという見通しも,障害の一つになったであろう.
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