医道そぞろ歩き—医学史の視点から・49
天然痘を絶滅させたジェンナー
二宮 陸雄
1
1二宮内科
pp.876-877
発行日 1999年5月10日
Published Date 1999/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402906047
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ジェンナーの牛痘種痘のお陰で天然痘(痘瘡)が地球上から絶滅したのは,WHOの宣言では1980年5月のことである.一つの病気,それも年々物凄い死者の山を築いた病気が,予防的医療行為によって地球上から絶滅したことは,医学史のなかでもほかに例のないことである.結核でもハンセン病でも抑え込むことはできているが,絶滅してはいない.それだけ天然痘の惨禍は大きく,種痘の効果への驚きは大きかった.
ジェンナーが牛痘に注目したのは,彼が14歳から21歳まで外科医の徒弟をしていた頃である.発疹で治療に来た牛乳搾りの女が「私は牛痘にかかったから天然痘にかかるはずがない」といった言葉は,20年もジェンナーの心に焼き付いていた.ジェンナーは牛痘と天然痘との関係について症例を記録しつづけた.そして1796年に,牛痘に感染している女の痘漿を8歳の少年に接種した.この少年に天然痘の痘漿を植えて,牛痘感染が人の天然痘を防ぐことを実証したのである.
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