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▶疾患の概要
皮脂欠乏性湿疹は,皮膚が乾燥し,痒みや落屑➊,亀裂➋(ひび割れ)を生じる疾患である.本症は,欧米では“asteatotic dermatitis”または“eczema craquelé(eczemaは湿疹,craqueléはひび割れの意)”と呼ばれることから,乾燥によるひび割れが臨床的特徴であることが容易に理解できる.高齢者に好発するが,ほぼすべての年齢層に見られ,その有病率は高い.症状は,寒く乾燥した冬季に悪化し,暑く湿度の高い夏季に軽快することが多い.
本疾患の発症には,加齢による皮脂腺や汗腺,表皮の機能低下に加え,環境因子が大きく関与し,湿度・気温の低下や,不適切な入浴習慣(頻回の入浴,ナイロンタオルなどによる過度の摩擦)などが原因となりうる.薬剤(抗癌剤や利尿薬,抗アンドロゲン薬など)や甲状腺機能低下症,放射線照射,知覚低下も本症の発症因子として知られている.また,遺伝素因も重要であり,その代表例はフィラグリン遺伝子変異である.筆者らは日本人の一般人口の約10%がフィラグリン遺伝子に機能喪失変異(ナンセンス変異またはフレームシフト変異)をヘテロ接合性に保有することを明らかにしてきた1,2).フィラグリンは,皮膚バリア機能の主な担い手である角層の形成に重要な働きをするほか,その分解産物は保水性に富む分子(これらの分子は“天然保湿因子”と呼ばれる)として機能するため,フィラグリン遺伝子にヘテロ接合性の機能喪失変異が存在すると,フィラグリンの産生量が正常の50%に低下し,潜在的に尋常性魚鱗癬と呼ばれる遺伝性の皮脂欠乏症を発症しやすくなる.いわゆる“乾燥肌”を見ても遺伝素因を想起しづらいかもしれないが,日本人の1000万人以上がフィラグリン遺伝子変異を持つと推定されるので,同変異は決して無視することのできない,本症の重要な発症因子である.
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