特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療
扉
小林 健二
1
1亀田京橋クリニック消化器内科
pp.1547
発行日 2019年9月10日
Published Date 2019/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402226473
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「腹痛」を診るのが難しく感じるのには,いくつかの理由がある.1つには,腹腔内には消化器の臓器だけではなく,血管,泌尿器,婦人科臓器などが存在することだ.さらに,心臓,肺といった腹腔外の臓器や代謝性疾患,膠原病などが腹痛の原因となることがあり,これらが腹痛の解釈をより複雑にする.2つ目は,疼痛部位と原因臓器との関係が単純ではないことである.腹腔内臓器由来の内臓痛の多くは腹部の正中付近に感じられる.加えて,関連痛や体性痛が関与することがあり,疼痛部位から原因を絞り込むことがしばしば難しくなる.3つ目は,腹痛に限ったことではないが,経験と知識が必要であることだ.系統的に病歴をとって,丁寧に身体診察をしても,重要な情報を素通りしたり,鑑別疾患が浮かばない,絞り込めない,ということが初心者でしばしばみられる.この場合,よくわからないために検査を乱発してしまうという状況に陥る.こういう経験を何回かした結果,検査をしないと診断がつかないのであれば,病歴と身体診察は端折って,すぐ検査をしたほうが効率がよいのではないか,と思ってしまうのも無理もないのかもしれない.もちろん,検査の必要性は否定しないし,画像検査の進歩が腹痛診療に大きく寄与していることは認める.しかし,何の仮説もなく検査をすると,見つかった異常の解釈を誤ることがあり,患者の訴えの解決にもならないことがある.反対に,例えば急性虫垂炎の初期のように,検査に異常がないから大丈夫と言えない場合はいくらでもある.面倒でも病歴と身体所見から“あたり”をつける作業は欠かせない.
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