医師の眼・患者の眼
死の床の句
松岡 健平
1
1済生会中央病院内科
pp.968-970
発行日 1979年6月10日
Published Date 1979/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402215942
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るいるいたる陰影欠損にわが眼を疑う
朝倉はわが眼を疑った.そして,ブラウン管に写し出された胃袋と,何ごとも知らないで透視用テーブルに横たわっている患者の顔とを見較べた.貧血はない.便の潜血反応は出ていない.肝機能検査は彼が実施したすべての項目について正常範囲であった.「この美しいご婦人に,こんなに元気そうな人に,何故こんなものがあるのだろうか」.朝倉は,自分のX線装置に誰かがコンピュータでも仕掛けていたずらしているような錯覚に陥った.胃の体部大轡側中ほどよりるいるいと陰影欠損が現れ,胃角部のやや上方から前庭部に至るMagenstrasseのあたりは親指一本分を通すぐらいに狭窄していた.
透視を終わると,朝倉はいつものにこやかな顔を意識的に保つようにし,ちょっとした胃炎であること,今後経過観察をしなければならないこと,を患者に告げ,胃散とMetocloprarnide(プリンペラン)を処方した.
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