Editorial
癌の免疫と転移
平井 秀松
1
1北大生化学
pp.1311
発行日 1971年8月10日
Published Date 1971/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402203789
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癌細胞はその特異抗原の存在のゆえに宿主からの抵抗を受けている,と考えるのが癌の免疫学者の基本的な考えであるが,癌の増殖とその転移のすさまじさを見せつけられると,この基本的立場は厳しい挑戦をうける.
転移はちょうど結核症末期の粟粒のごとくに,感染症における敗血症のごとくに,宿主の免疫機構の荒廃に基づく刀折れ矢尽きた終局の状態である.したがって上記の基本的立場はゆるがない,と考え得ても,一匹移植の成立は免疫機構の荒廃で説明するわけにはゆかぬ.吉田肉腫細胞のただ1個をラット腹腔内に入れてやればそこに移植が成立するという,驚異的な佐々木研究所の実験である.しかも,この移植はallogeneicのbarrierさえもこえているのだ.一匹移植の成立と癌の転移とは同一現象をみているといってよい.周辺ただ1人の同胞もない異郷の地にたくましくコロニーを形成してゆく癌細胞である.どうも,頼りがいのない免疫だ.
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