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最近,東京上野の科学博物館で「医は仁術」というテーマで医学史の展覧会が開催されていたが,古来,日本では医師は僧侶,絵師と共に方外の人とされ,剃髪していて,その倫理は儒教の教え「医は仁術」であった.西洋でも医療はキリスト教の愛の精神に基づき医師が施す慈善の行為であった.しかし近年になると,西欧を中心に個人主義に基づく自由民主主義社会が発展し,医師は患者の人権を尊重し,患者の自己決定権を尊重すべきということになってきて,医事に関する法律も増え医療訴訟も増加してきた.このような状況は日本にも波及してきて,医師も患者に良かれと思って行ったことが,うまくいかないと訴えられるという事態になってきた.しかし,法律,訴訟のことになると医師はあまりにも無防備で特に刑事とか民事訴訟の区別さえ知らないといった法律に無知な医師が多く,これでは医業の倫理あるいはコンプライアンスが守れないのではないかという危惧から著者らは本書を発刊された.
著者の寺野彰先生は大学紛争時代に弁護士の資格を取られ,その後,大学に戻られ,獨協医科大学の内科の教授として診療,教育,研究に当たられ,さらに学長,理事長としてご活躍されており,私の敬愛する先生の一人であるが,特に先生は医師と弁護士の二重のライセンスをもたれており,最近ではその立場から医療問題について発言されてきた.今般は同じ職場の弁護士さんと協力され,一般の医師を対象とした法律,訴訟についての解説書を上梓された.医学,医療の法律問題については多くの書がみられるが,ほとんどが法学者や弁護士の書かれたもので,本書は医学・医療に深く関わってこられた先生の著であり,特に医師としての視点で書かれているところに特徴がありわれわれに親しみやすい.
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