連載 ヘルスセクターリフォームの国際動向・8
アメリカの医療改革
清滝 裕美
1
,
長谷川 敏彦
2
1株式会社自然総研
2国立医療・病院管理研究所医療政策研究部
pp.869-875
発行日 1998年12月15日
Published Date 1998/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401902000
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多くの先進諸国は政府主導の包括的な国民皆保険を導入しているが,アメリカにおいては医療の普遍的なプログラムの立法化を試みる努力はことごとく失敗してきた.アメリカ人の個人の自由を重んじ,政府の介入を好まないという国民性は医療にまで及んだ.大恐慌の後,ブルークロスおよびブルーシールドが成立し,戦後,雇用主による給与外給付として医療保険が給付され,民間営利保険が普及した.しかし,アメリカ人の価値観の多様化を背景に,医療保険の保険料もその給付範囲も様々であり,保険請求の事務手続きを複雑にした.1965年に社会的弱者である高齢者・障害者と低所得者を対象とした政府プログラムであるメディケアとメディケイドが成立し,無保険者の割合は15%程度まで減少した.その後も繰り返し国民皆保険制度が立案されるが,それを「小さい政府」,「少ない税金」でまかなうという難問に阻まれ,成立には至っていない.
第二次世界大戦後のヒル・バートン法に基づく病院施設・病床数の増加,医師数の増加,医療保険制度の拡大,保険・医療テクノロジーの進歩によってアメリカの国民医療費は急増した.国民医療費の伸びはGDPの伸びをしのぎ,国民経済における医療費の負担の大きさは既に1970年代から指摘されていた.他のOECD諸国と比べると総医療費の対GDP比は1960年以来高水準であり,特に1980年代にはいると際立った伸びを示し,1997年には14.0%に至った.他の先進国は7%から10%にとどまっている(図1).
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