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高齢者の「食力」向上から健康長寿を再考する
国民,特に高齢者の食事摂取に対する認識はどこにあるのか.どの高齢者に生活習慣病を厳格に管理するためにカロリー制限や塩分制限をやるのか,一方で,どの高齢者のどの時期から従来のメタボリック症候群(以下,メタボ)の概念(言い換えればカロリー制限の意味にもなる)からどう切り替えてもらうべきなのか.このスイッチング(考え方のギアチェンジ)は,今後フレイル対策を進める中で非常に重要な鍵になる.すなわち地域ごとの従来の介護予防事業を今まで以上に底上げし,さらに専門職の支援活動(栄養,口腔,服薬,等)に加え,国民目線での活動(自助・共助・互助)を軸とするまちづくりの中で,「しっかり噛んでしっかり食べる」という原点をいかに各国民が改めて自分事化し,大きな国民運動にまで発展させ,最終的には包括的な介護予防等の施策改善に資する流れにつなげたい.
高齢者の食の安定性,すなわち「食力(しょくりき)」がどのような要素によって下支えされているのかを再考してみよう.図1に示すように1),残存歯数や咀嚼力,嚥下機能,咬合支持も含めた歯科口腔機能は一番重要であると同時に,複数の基礎疾患(多病)による多剤併用(polypharmacy)は知らないうちに食欲減退につながる危険性も高い.また,口腔を含む全身のサルコペニア(筋肉減弱症)の問題,さらには栄養(栄養摂取・バランスの偏り等の食事摂取状態だけではなく,食に対する誤認識も含まれる)などの要素も関与は大きい.そして,それら以上に重要な要素が「社会・人とのつながり,生活の広がりに代表されるような社会性・生活・ライフイベントやうつ等の精神心理面・認知機能,経済的問題」等の要素である.当然,その中には孤食か共食かなどの食環境の変化も含まれる.以上のように,高齢者の食を考え直してみると,高齢者が低栄養に傾いてしまう原因は多岐にわたる.
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