綜説
地区に於ける保健指導—綜合的な農村厚生指導
宮本 璋
1,2
1東京医科歯科大学医学部生化学
2農村厚生医学研究所
pp.540-548
発行日 1959年9月15日
Published Date 1959/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202182
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私は昭和13年頃より農村厚生の諸問題に関心を持ち,農村に入り込んで色々仕事をして来た。戦後民主化の名に於いて,或は科学思想の普及面に於いて,農村の姿が種々に変貌しつつあるのを見るにつけ,戦前に農村に対して持つた親近の度合が更に深まつて来たのは当然でもあつたが,当東京医科歯科大学に於ける農村厚生医学研究所の設立もあり,今私共が初めて農村に入つた当時を振り返つて見て感慨無量でもある。私が農村に入つた初めは若気のいたりもあつて,健康診断をしたり,栄養の指導をしたり更には栄養源の自家自給を計画したりして随分夢を持つたりした。しかし実際に農村の隅々を歩き廻つて見ると,生半可な知識を振り廻した保健指導だけでは決して農村は良くならない事を知り,農村に山積する諸問題や根強い陋習を目のあたり見るにつけ,農村そのものの実体を多角的に把握しなければ,ほとんどの農村指導は空虚に等しいものだと言う事を痛感した。私が都会に育つた関係もあつたが実際農村に入れば入る程全ての問題の根底が極めて深いものであり,これの1つを解決するにも容易な事ではないと,時には絶望感にさえ襲われた事もしばしばあつた。こうして何年間かの歳月はまたたくうちに経過したが,現在考えて見るとその当時毎月一度は必ず何日間か農村に寝起きして自分の目で農村をよく見た事が今になつても非常に為になつていると考えるようになつた。
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