特集 傳染病問題の焦点
傳染性下痢症について
福見 秀雄
1
1国立予防衞生研究所
pp.26-28
発行日 1954年1月15日
Published Date 1954/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201318
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
伝染性下痢症が一つの病気の病名であるということをよく認識しておかねばならない。単に伝染性に下痢をおこす病気という言葉ではないのである。伝染性にひろがる下痢性疾患が大きく流行した場合,しかもそれが赤痢などではない場合に,伝染性下痢対策本部などという名称で,防疫陣が布かれるのを時に目撃するが,伝染性下痢症というのはこの種の普通名詞ではないのであつて,チフス,赤痢,日本脳炎等と同列の一つの確立した病気した病名であつて,その病原体も,伝染性下痢症ウイルスとはつきりしているのである。
伝染性下痢症は昭和23年の初春に日本全国特に新潟,山形,和歌山等に流行して以来我が国では認識されるに到つた。それ以前に日本に本病が存在したかどうかは詳かでない。併し少なくとも人目にたつやうな流行をおこしたことはないと考えられる。又昭和23年春の本症流行がいかにしておこつたか,換言すれば,その流行の,感染源がどこにあつたかも不明である。その時まで我が国では全然認められなかつたのであるとし,その当時は終戦後なお日浅く,日本軍人,軍屬の復員繁く,又,連含軍特に米軍の住還も盛んであつた頃であるし,感染源が国外にある可能性も一応成立する。そこで国外に於ける本病と同様な症状を持つた病気の流行状況を文献で調査してみると,一つは支那方面に於てそれらしいものがみられる。俗称豊台下痢と言つて,北支北京近郊の豊台に第二次大戦中に往々見られたものである。
Copyright © 1954, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.