「公衆衛生」書評
―茨木 保 著―苦しみを抱えながら不朽の仕事を成し遂げた―『ナイチンゲール伝 図説 看護覚え書とともに』
鈴木 晃仁
1
1慶應義塾大学・医学史
pp.415
発行日 2014年6月15日
Published Date 2014/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401103041
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フロレンス・ナイチンゲール(1820~1910)は,クリミア戦争(1853~1856)におけるスクタリの陸軍病院の傷病兵の看護で国民的な英雄となり,帰国後に,イギリス陸軍の衛生・看護の改革,イギリス帝国に編入されたインドの衛生の改革,急激に拡大していた病院における看護の改革などに活躍した女性である.1859年に出版された『看護覚え書』は改訂されながら版を重ね,現在では世界中で200以上の言語に翻訳されている.今も医療の現場でも存在感がある歴史上の人物である.
偉大な人物の常として,どの時代もそれぞれのナイチンゲールの像を描いてきたし,同じ時代においても,信条や視線の違いによって,異なったナイチンゲールの姿が映し出されてきた.当初は傷病兵を見守る「灯を持った婦人」として女性らしい献身とキリスト教精神の発露の象徴とされ,行政学者も,統計学者も,フェミニストも,それぞれの立場からのナイチンゲールを描いてきた.
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