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はじめに
一般環境下での胎児期から乳幼児期にかけての化学物質へのばく露の影響が懸念され,鉛1)やメチル水銀2,3),PCB(ポリ塩化ビフェニル)4)について,1980年頃から子どもの発達に及ぼす影響の疫学調査が実施された.その結果,神経行動発達への影響やIQ低下を示す報告もあったが,どの程度のばく露量で影響が見られるのか,閾値があるのか,さらに成長した後にどのように影響が推移するのか等々,不明の点も多い.鉛・メチル水銀・PCB以外にも化学物質は多く存在し,その他の物質の影響,また複合的なばく露の影響,さらには家庭環境・生育環境との交絡や遺伝的に影響を受けやすい集団が存在するのか等の詳細は不明である.
世界中の子どもが環境中の有害物の脅威に直面していることは国際的にも認識され,小児の環境保健をめぐる問題に対して優先的に取り組む必要があることが宣言された(マイアミ宣言:G8環境大臣会合,1997年).国際化学物質戦略会議(SAICM,2006年,ドバイ)では,「我々は,子供たちや胎児を,彼らの将来の生命を損なう化学物質の曝露から守ることを決意する(環境省仮訳)5)」との考え方が打ち出された.2009年のG8環境大臣会合(シラクサ)では,日本の環境省が“子どもの健康と環境”を議題として取り上げることを要請し,“気候変動”と“生物多様性”に次ぐ,第3の正式な議題として“子どもの健康と環境”が取り上げられ6),各国が協力して取り組むことが合意された.
このように,20世紀末から“子どもの健康と環境”についての関心は高まり,いくつかの出生コホート調査が既に始まったり,始まろうとしている.わが国でも,2010(平成22)年度に子どもの健康と環境に関する全国調査(いわゆる「エコチル調査」)が立ち上がり,2011(平成23)年1月末から妊婦を対象としたリクルートが始まった.
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