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遺される者と逝ってしまう者の間にある結び目─「生と死」を考える
2007年「第60回カンヌ国際映画祭」グランプリ受賞作品.奈良の山間地のグループホームで,27歳の新任の介護福祉士・真知子が,70歳の認知症を罹患した男性・しげきと出会います.真知子は,最近子どもを失っていました.しげきは33年前に妻・真子に先立たれていますが,今は認知症が発症したため,真子が死んだことを時々忘れるようでした.ある日,真知子としげきは真子の墓がある森に墓参りに行きます.そこで二人は迷子になってしまい,豪雨のなか,森のなかで一夜を過ごします.翌日,二人は真子の墓に辿りつき,それぞれの仕方で逝ってしまった者たちと思いを通わせるのでした.森と土と音楽.とても私の筆力ではちゃんとした紹介ができないので,毎回のように言っていますが,是非ご鑑賞ください.
生と死を等しく見つめ,遺される者と逝ってしまう者の間にある結び目を描いた作品です(「モガリの森」DVD付録特製ブックレットより).生者と死者のつながりと交流,再会を描いていると言ってもいいでしょう.このような日本人の死生観は,アカデミー賞外国語映画賞を獲得した滝田洋二監督『おくりびと』でも同様に描かれていました.生と死の連続性ですね.タイトルにもなっている「殯(もがり)」とは,死者の肉体から遊離しようとする魂を呼び戻そうとする期間,または死者が現世での生の営みに対してもつ執着の思いを断ち切り,あの世に送る儀式と考えられています(宮本誉士:及木希典の死生観,pp77-99,神道文化会(編):神道と生命倫理,弘文堂,2008).さらに敬う人の死を惜しみ,しのぶ時間,またはその場所の意,という見解もあります(「モガリの森」DVDケース).
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