特集 鍼灸は、なぜ「うつ」に効くのだろうか 心身不調改善のツボはここだ!
—現代社会における鍼灸のニーズ❷—精神科臨床で遭遇する身体愁訴と鍼灸の可能性—「原因不明」に対しても「治療的関わり」を減弱させない
中村 元昭
1
1昭和医科大学発達障害医療研究所
pp.195-200
発行日 2025年5月15日
Published Date 2025/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.134327610280030195
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鍼灸による心身回復の実体験
私の鍼灸体験は大学時代までさかのぼります。当時の私はボート部で合宿三昧の生活を送っていました。大学3年の頃、オーバートレーニングや不摂生が重なり、腰を痛めてしまいました。それ以来、恐怖のぎっくり腰(急性腰痛症)を繰り返すようになりました。腰痛治療のため、大学の東洋医学センターで受けた鍼灸の効き方がとても印象的でした。鎮痛剤による除痛効果とは異なり、腰痛が軽減されるだけでなく、すぐにでもボートを漕ぎたくなるような活気を感じました。つまり、心身ともに回復したのです。
大学卒業後、私は精神科医としての研鑽を詰み、7年目で米国ボストンに研究留学する機会を得ました。朝から晩まで脳MRIデータを解析したり、論文を作成したりしているうちに、眼精疲労から腰痛を再発しました。ハーバード大学で医師向け生涯教育を担当する日本人の鍼灸師*1がいると聞き、アポイントを取りました。目や腰が本来の状態に回復するだけでなく、peacefulな感覚をともなう心身の回復を体験したのです。鍼灸院からの帰宅途中に車を運転しながら、ひどい交通渋滞やマナー違反のドライバーと遭遇しても、感情的にならず穏やかで包摂的な精神状態でいられたことをよく覚えています。こうした体験を毎月繰り返すうちに、これはメンタルヘルスに使えるはずだと強く感じました。

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