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細胞接着,細胞間相互作用は,体液性因子・受容体系と並んで,多細胞生物の発生やシグナル伝達,環境への応答など,様々な局面で中心的な役割を担っています。一見複雑に感じられるその作用機構は,近年,一細胞解析による空間的把握や細胞膜タンパク質間の相互作用の解明によって,細胞・分子レベルに還元して理解可能となりつつあります。これら細胞膜タンパク質のなかでも,免疫グロブリンスーパーファミリー(immunoglobulin superfamily;IgSF)分子群は,ヒトで700種以上を占める巨大な分子群です。その名のとおり,免疫グロブリン様ループ構造を持つのが特徴で,免疫グロブリンやT細胞受容体分子に加えて,多様な細胞接着分子,増殖因子受容体などを含みます。そして,個体発生,上皮形成,免疫応答,神経接着,精子形成など,時空間的にも多彩な生体反応に関わり,その異常はがんの進展や腫瘍免疫の異常,精神・神経疾患や不妊など,複雑な病態を生じます。この複雑性の基盤には,IgSFの分子構造自体の多様性に加え,遺伝子発現やスプライシング,糖鎖修飾や酵素切断部位などの多様性があるものと考えられます。しかし,その多様性のゆえに,各領域で個別に研究されてきたのが実情です。私はがん研究の立場から,長年IgSF分子群に関わって参りましたが,恥ずかしながら,その広さ,深さをどこまで理解できているのか甚だ疑問です。ですが,私は動物行動学の祖で1973年にノーベル生理学・医学賞を受賞されたNikolaas Tinbergen博士が唱えられた生物学をめぐる4つの問い,因果(causation),発生的要因,機能的要因,進化的要因という捉え方に大変憧れを感じてきました。これに,自分のがん研究者としての1つの視点,病態との関係(病因)を加えた5つが,医学生物学の謎に答える道だと信じています。そこで,IgSF分子群とは何だろう? という疑問に,この5つの道から迫ることができればと考え,本特集を企画しました。各領域を牽引され,また第一線で活躍されている研究者の方々には,御多忙のなか,IgSF分子群の多彩な機能と対応する病態に関する広範な知見,最新の成果を御執筆いただき,心より御礼申し上げます。本特集を通じて,生体反応の時空間制御におけるIgSF分子群の医学生物学的意味を俯瞰し,5つの問いに思いをめぐらしながら,医学生物学の面白さ,生体の奥深さを科学として楽しんでいただければ幸いです。

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