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I はじめに
シングルセッション・セラピー(Single Session Therapy : SST)とは,クライエントを支援するためには,たとえ1回のセッションでも十分な支援が行えるという考え(マインドセット)に基づくセラピーの総称である。精神分析や認知行動療法,ブリーフセラピーのような明確な理論モデルを有するわけではなく,どんなアプローチにもフィットするメソッドとも言える(Cannistrà & Piccirilli, 2021[浅井・浅井 訳,2024])。SSTはTalmon(1990[青木 訳,2001])の研究から始まり,Schleider et al.(2025)では,さまざまなクライエントやさまざまなセラピーの場面においても,1回の介入の有効性がレビューされている。
SSTは名前のインパクトから,必ず1回で完結させるセラピーであると誤解されることもあるが,決してそうではない。SSTを行った結果,クライエントがさらにセラピーを必要とするのであれば継続することができる。ただし,その際にもセッションそのものは1回で完結しており,完結したセッションが複数回続いていくという捉え方をする。そのため,本研究のタイトルにもある「1回のセッション」は,1回だけで終結するセッションを指すこともあれば,複数回行われている1回の完結したセッションのことも指している。
本稿で紹介する研究には,そうしたSSTの文脈において,1回のセッションの効果を最大化するためにはどうすれば良いのかという問いへのヒントが掲載されている。論文著者であるFlavio CannistràはSSTの世界的な研究者・実践家であり,彼の執筆した書籍は日本でも翻訳されている(Cannistrà & Piccirilli, 2021[浅井・浅井 訳,2024])。本研究は,たとえセラピストや支援者がどのような臨床的なオリエンテーションを持っていても,どのような支援の環境にあっても参考にできる部分がある,全ての対人援助に関わる者に目を通していただきたい論文である。

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