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逆転写酵素の発見―セントラル・ドグマを覆す
1970年のHoward Martin Temin(1934~1994年)による逆転写酵素(reverse transcriptase:RT)の発見1)は,遺伝情報がDNAからRNAへと一方通行で “転写” されるというセントラル・ドグマを文字通り “逆” にする大発見であった.それまで考えられていた概念とは “逆に”,遺伝情報がRNAからDNAへと伝達されるという事実と,それを媒介するRTとレトロウイルスの発見である.そしてわずか5年後の1975年,Teminは独立して同じ観察に成功していたDavid Baltimore(84歳,California Institute of Technology)2)とともにノーベル賞生理学・医学賞を受賞する.したがって,RTの発見から50年目は正確には2年前の2020年になる3).しかし,2020年の世界は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに沈んでおり,とても記念シンポジウムを開催できるような状況にはなかった.1970年前後のRTの大発見に関わった研究者たちはすべて80歳代かそれ以上で,COVID-19に対するワクチンも抗ウイルス剤もない2020年にin-personで開催する会合はあまりにも危険で無謀であった.無論,Webでの開催という選択肢もあったが,主催者のJohn Coffinら(Taft University)は予定されていたスピーカーにemailで意見を聴取し,emailでの “投票” の結果,歴史的となる記念シンポジウムは2度も延期された.Coffinも他の重鎮もin-personでの開催に強く拘り,Hiroaki Mitsuyaも “延期” に投票した.
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