Japanese
English
論説
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにおける大腿骨近位部骨折治療
-――高齢者骨折センターの同時開設をふまえて
Treatment of proximal femoral fractures under surge of coronavirus disease 2019
岸 裕貴
1
,
津田 晃佑
1
,
綿谷 俊介
1
,
三好 祐史
1
,
渋谷 高明
1
H. Kishi
1
,
K. Tsuda
1
,
S. Watatani
1
,
Y. Miyoshi
1
,
T. Shibuya
1
1住友病院整形外科・高齢者骨折センター
1Dept. of Orthop. Surg., Geriatric Fracture Center, Sumitomo Hospital, Osaka
キーワード:
orthogeriatric service
,
coronavirus disease 2019(COVID-19)
,
proximal femoral fractures
,
state of emergency
Keyword:
orthogeriatric service
,
coronavirus disease 2019(COVID-19)
,
proximal femoral fractures
,
state of emergency
pp.1125-1130
発行日 2022年10月1日
Published Date 2022/10/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_seikei73_1125
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は じ め に
世界でもっとも高齢化率の高いわが国では,高齢者の骨折が年々増加の一途をたどっている.その多くが骨粗鬆症を基盤とする脆弱性骨折であり,日常生活に多大な悪影響を及ぼす.特に高齢者の大腿骨近位部骨折(proximal femoral fracture:PFF)は,日常生活動作(ADL)能力を低下させるだけでなく,数日間の床上安静が続くことで誤嚥,肺炎,廃用,排尿障害,せん妄といったさまざまな合併症を起こしやすい.生命予後を悪化させることも少なくなく,アイスランドでの脆弱性骨折発生患者の死亡リスクを解析した結果によると,同性・同年齢の非骨折患者コホートと比べてPFF患者は,たとえば60歳女性では死亡リスクが3倍に高まると報告されている1).海外では高齢者のPFFを “heart attack” になぞらえ “bone attack” と呼称することで,骨折が生命予後に大きくかかわることを啓発している2).わが国でもPFF患者は年々増加しており,年齢別発生率は60歳以降徐々に増加し,70歳代後半から指数関数的に上昇する3).2007年に15万人であったPFF患者は2020年には25万人まで増加し,2042年には32万人まで増加すると予測されている4,5).超高齢社会となった今,癌や心臓病,脳血管障害を免れたとしても,PFFで要介護や寝たきりの状態となり健全な老後が送れなくなっている現状がある.日本骨粗鬆症学会は「骨卒中」という造語を提言し,「PFFは骨粗鬆症によって発生する重篤な骨折で,高齢者の健康寿命に大きな影響を及ぼす」ということを広く国民に啓発している.
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