巻頭言
巻頭言
安田 守雄
1
1北大
pp.109
発行日 1955年12月15日
Published Date 1955/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905858
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尊敬する科学者は?という質問に対してパスツールと答える人が多い。学者としてまた人間としての彼の魅力は殆んど絶対的であるように思う。1892年12月彼の誕生70年の祝賀会がソルボンヌ大学を会場として催された。英国のリスターをはじめ国内国外の著明人は堂に溢れ,それに交つてソルボンヌ大学の学生ハイスクールの生徒も多数同席を許されていた。既に体力の衰えたパスツールが大統領の腕によりかつて会場に姿を現すと,外科の王者リスターは立ち上つて彼をだき抱え,満堂の熱狂と興奮は真に劇的以上であつたという。壇上に立つたパスツールは山上の垂訓を説く聖者にも似たものがあつたと想像できる。演説の終りの方で—それは内外の賓客に対するよりも,会場の一偶に坐を占めた大学生ハイスクールの生徒に主として訴えるかのように—次のように述べている:"先ず自分自身に聞いてみよ,‘自分は自分の専門分野で何をしたか?’次に自己の地位が次第に向上するにつれて‘祖国のために何をなしたか’と自省せよ。そして遂に自分は人類の福祉の増進に何程かの貢献をなしえたと考えうる大ぎな幸福にひたることのできるように……"
この10数年間ほど医学或いは公衆衛生上の大発見が相次いだ時代はない。
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