Japanese
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特集 分子進化
遺伝暗号の可変性
Variability of the genetic code
山尾 文明
1
Fumiaki Yamao
1
1名古屋大学理学部生物学科
pp.10-17
発行日 1989年2月15日
Published Date 1989/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905232
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I.はじめに:普遍性神話の崩壊
1960年代に解読された遺伝暗号は部分的な変化を除いて現在のすべての生物に対し基本的に共通である。これは現存するすべての生物がその起源を同じとすることの一つの証拠とされている。同時に,この普遍性は現在の遺伝暗号が生命系の進化のごく初期に偶然に凍結された1)ものであり,その変化は遺伝情報のシステム全般に重大な結果をもたらすがために起こり得ないと考えられてきた。1979年のヒトのミトコンドリアに端を発して2),種々の生物のミトコンドリアでの多様な暗号変化が明らかになった3)(図1)。この時点でも,ゲノムが小さく,それがコードする遺伝子の数もごく少数に限られたオルガネラにのみ許される例外としての認識が一般的であった。しかしその後自律的増殖系においても原核,真核生物の両方で少数ながら遺伝暗号の変化した例が見つかった。真性細菌の一種マイコプラズマではUGAコドンがトリプトファンを4),繊毛虫の類ではUAA,UAGがグルタミン5,6)を規定している(図1)。こうした遺伝暗号の多様性はいずれも普遍暗号からの部分的な逸脱ではあるが,遺伝暗号自体も他の生物的諸側面と同様に進化の対象であり変化しうるものであることを示している。したがってこれらの暗号変化の過程を解明して多様化を生じる要因を探ることはきわめて重要な意味を持つ。
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