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われわれヒトを含む哺乳類の成体は,損傷を受けた心筋組織を元どおりに再生させる能力を持たない。しかし,出生直後の哺乳類の新生仔は,損傷を受けた心筋組織を心筋細胞の細胞分裂促進を介して修復できる。これは,ブタやヒトなどの大型動物から齧歯類などの小型動物まで,哺乳類が共通して持つ能力である。この新生仔の心筋再生能は,出生後数日で起こる心筋細胞の細胞分裂の停止と同調して喪失する。これまで,出生後数日以降に損傷を受けた心筋組織を再生できる哺乳類種は知られていなかった。筆者らは南米に生息する有袋類であるハイイロジネズミオポッサム(Monodelphis domestica,以下単にオポッサムとする)では,出生後2週間以上もの期間にわたって心筋細胞が細胞分裂を継続することを見いだした。加えて,2週齢のオポッサム新生仔が心尖部切除や心筋梗塞などの心筋障害を再生する能力を維持していること,この心筋再生能は出生後1か月までに失われることを明らかにした。更に,オポッサムおよびマウス心臓組織の比較トランスクリプトーム解析により,5'-AMP-activated protein kinase(AMPK)シグナルが出生後の心筋細胞で活性化していること,そして遺伝学的・薬理学的手法によりAMPKシグナルの活性化を阻害することで,マウスおよびオポッサム両者において,出生後の心筋細胞の細胞周期停止の時期を遅らせることが可能であることを見いだした1)。
以上の研究により,有袋類オポッサムの新生仔がこれまで知られているすべての哺乳類のなかで,最長の期間にわたって心筋再生能を維持することが明らかにされ,更に哺乳類間で保存された心筋細胞の細胞周期停止の分子機構の一端が解明された。
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