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近年流行している“マイコプラズマ肺炎”は小学校高学年の子供がよくかかる病気で,マイコプラズマ=ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)(以下,ニューモニエと略)(図1)という細菌によって起こる1)。この肺炎は,症状が比較的軽く,患者が通常の生活を送れることから,英語ではwalking pneumoniaと表現される。しかし,マイコプラズマ肺炎は肺炎全体の約1割を占め,あなどれない存在である。“マイコプラズマ”は系統上は“モリキューテス綱”に含まれる。クロストリジウムと同じグラム陽性菌のhigh AT branch groupに属するモリキューテス綱は200以上の種を含み,ほとんどの種類は宿主の組織に接着するための仕組みを発達させている。
さらに,ニューモニエを含む12種は動物細胞やガラスやプラスチックに張り付き,すべるように動く“滑走運動”を行う2-6)。この運動は毎秒1ミクロン,すなわち動いていることが一目で見てとれる速さである。さらに最速種で,淡水魚のエラにネクローシスを起こすMycoplasma mobile(マイコプラズマ=モービレ,以下,モービレと略)では毎秒4ミクロンにも達する7-9)。モリキューテス綱は系統上四つに分かれるが10,11),そのうちニューモニエが属するPneumoniaeグループと,モービレが属するHominisのグループに滑走する種が見つかっている。これまでに滑走能を持つ数種のマイコプラズマのゲノム構造が決定されたが,そこには細菌の運動メカニズムとして知られているべん毛や線毛の遺伝子も,真核生物の運動のほとんど全てを担っているモータータンパク質(たとえばミオシンのような)の遺伝子も見つからなかった12)。このことは,この現象が現在の生物学では説明できない“ミステリー”であることを意味している。本稿では,ニューモニエの滑走運動について現在における理解を概説する。
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