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Ectoplasmic specialization(ES)は精細管上皮細胞であるセルトリ細胞に存在する特殊な形態と機能を持つ細胞間接着装置である。生殖細胞は精細管内で分化・増殖し,完成した精子は精細管内腔へ放出される。セルトリ細胞は生殖細胞が接触する唯一の細胞であり,生殖細胞の分化・増殖・運搬を一手に引き受けている。ESは生殖細胞の分化・増殖に必要な微小環境の提供と,運搬の機能に深く関わっている。
ESの構成は,1)細胞膜,2)細胞膜と平行に配置する小胞体,3)細胞膜と小胞体の間に挟まれて六角格子配列する太いアクチンフィラメント束である(図1)。細胞膜表面には接着分子Cadherin,Nectinが存在する1,2)。これらはそれぞれCatenin,Afadinによってアクチンと結合している。ESはこれら接着分子を介して隣接する細胞どうしを接着する。ESが形成される場所はセルトリ細胞の基底外側面と上部である(図1)。この二つのESは異なる機能を担っている。基底外側面のESは隣接するセルトリ細胞を接着し,密着結合を含んでいる。これより基底側に精祖(精原)細胞が配置し,上部には減数分裂期の精母細胞と半数体の精子細胞が配置する。思春期以後に出現する精母細胞と精子細胞は,この配置によって自己の免疫的攻撃から免れることができる。ESはいわゆる血液精巣関門としての役割を果たしている。セルトリ細胞間の密着結合を担う接着分子としてClaudin-11が同定された3)。この分子の遺伝子欠損マウスでは精子形成が進行しないことから,ESの密着結合は精細管上部の環境を組織液とは異なる独特な組成に保ち,精子形成に必要な微小環境形成に寄与していることが証明された。上部のESはセルトリ細胞-精子細胞間に形成される。基底外側面のESと異なり,上部のESには密着結合はない。この部位の小胞体近傍には基底-上部方向に微小管が走り,さらに微小管に面する小胞体膜上にはダイニンが存在する4)。精子細胞自身には移動する能力がないが,このチューブリン/ダイニン系の働きにより基底-内腔間のトランスロケーションが可能となる。
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