連載 カウンセリングの現場から・4
死んでお詫びをいたします
信田 さよ子
1
1原宿カウンセリングセンター
pp.340-341
発行日 2000年4月10日
Published Date 2000/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686901195
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暗い夜道を全速力で逃げる。雑木林の向こうに見えるのは交番の光のはずだ。息が切れそうだけどあと少しがんばろう。さあ左に廻れば交番だ。あれ,どうしたんだろう……暗い。ここは押し入れじゃないの。いつのまにかこんなところに隠れてたんだ。でもここなら安全,だってとなりのおばさんはきっとかくまってくれる。あれは何の音。足音が近づいてくる。どうしてここがわかったんだろう,おばさんがお母さんの言うことを信じたんだろうか。もうだめ,どうしよう。その瞬間押し入れのふすまが開く。光がさっと差し込み,逆光の中に浮かぶ姿。お母さんだ,ああ,もう逃げられない……。
こんな夢をB子さんはもう何十回,何百回と見ている。そして絶体絶命かと思うところでいつも眼がさめる。不思議なことに,その時母がどんな表情をしていたのかはわからず,ただ黒々としたシルエットだけが妙に鮮明に焼きついているのだ。カウンセリングの場面でも,その話をする時はどこか怯えた表情になる。38歳の彼女は自分がアダルト・チルドレン(AC)だと自覚してカウンセリングに訪れた(ACについては拙著『アダルト・チルドレン完全理解』〔三五館〕,『アディクションアプローチ』〔医学書院〕を読んでいただくことにして,本稿では詳述は避ける)。最初に会ってからもう4年近くになる。
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