なでしこのうた
幸せな結婚をしたけれど
塩沢 美代子
pp.133
発行日 1970年10月1日
Published Date 1970/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661915072
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結婚式といえば誰もが秀才と才媛になれる日だそうだが,Kさんの場合は全く掛値なしにそのうたい文句どうりであった。秀才のほまれ高い繊細な色白の青年が,大学生のときから6年間恋しつづけ,木の実がうれて落ちるように自分の胸に飛びこんでくる日を待った花嫁の美しさは群をぬいていた。結婚式に招かれていた花嫁と親しい日本人の男性たちは,彼女の美しさにもましてその聡明さに魅力を感じていた。しかしこんなに優れた同国人のお相手がいたのではとてもたちうちできなかったと,心ひそかにアキラメがついた。日本に生まれ,日本の学校に行き日本の社会で働いていたけれど,彼女はレッキとした韓国人であり,祖国のこと,日本と韓国の関係などについてどんなに真剣に考えているかをよく知っていたからである。
このように羨望をこめながらも心から祝福した友人たちは,この「幸せな男」が,結婚後1年2か月でういういしい若妻と生後13日目の坊やを残して死んでしまったときいて,つくづく人の運命のはかなさを感じた。
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