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ベンゾール中毒
榎本 英壽
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1日本赤十字社中央病院内科
pp.26-29
発行日 1960年11月15日
Published Date 1960/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911195
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ヘップ・サンダル—ロマンチックなこの名で近年わが国に流行したビニール・サンダルは,映画「麗わしのサブリナ」で,富豪のお抱え運転手の娘に扮したオードリー・ヘップバーンが愛用したのがきつかけであつたが,このサンダル作りがやがて,死につながる大きな社会問題となつたのは,まだわれわれの記憶に新しいところである。
ほとんどが零細な家内工業に依存されていたこのビニール履物工業で,ビニール布とゴムスポンジ靴底とを貼り合わす作業に用いられる接着用ゴム糊の溶剤のベンゾールが,作業者におそろしい慢性中毒をひきおこすことが表面化したのである。東京においては,昨年6月21日の臨床血液学懇談会総会で,東大上田内科より,このビニール加工業の内職者から相次いで再生不良性貧血の患者が発生したことが報告され,これが7月29日の朝日新聞に5段抜きで報道されてにわかに大きな問題となつた。更に9月には内職の主婦の死亡が報ぜられ,都衛生局が集団検診に乗り出すに至つている。が,問題はこれよりさき,大阪で既に昭和32年の暮に,市内の一ビニール履物製造業者から,労働基準局あてにベンゾール中毒患者発生の報告がなされ,翌33年7月には死亡者が発生して新聞に取り上げられていたのである。以来大阪では昨年2月までに6例の死亡が報ぜられ,同業者間や労働基準局でその対策を急いでいた。
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