ナースの作文
土曜会,他
伊藤 ヨリ子
1
1国立盛岡療養所附属高等看護学院
pp.49-52
発行日 1960年1月15日
Published Date 1960/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911019
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4月の夜は更けてゆく。岩手の白峯より吹き下ろされる初春の風の音も今宵は一層荒寥として私の心を一陣の隙間風となり通り過ぎる。常ならば今宵は楽しき集いとなる“土曜会”のあるべき晩なのであるが,そこには最早,私の絶望感とうつろな心とがあるのみである。人間とはいや人間の善意とはかくまで弱いものなのであろうか……。
土曜会の趣旨はいつたい何んであつたのか。それはいうまでもなく私達の精神生活において少しでもうるおいを与えるためのものに他ならない。正規の高看学生が3年間で学びとるすべての講義を私達進学コースの学生は2年間で学びとらなければならないのであるから,当然そこには楽しくあるべき学生生活も勉強に追われ緊張しきつた生活の続くのも当然であり,またそのように覚悟しているのであるが,そんな味気ない,平凡といえば平凡な生活の中に若さと意欲に燃えた12の瞳がお互いに一滴のうるおいを求めて,小さい灯の下に集りここに土曜会なるものが誕生したのであつたが。……それなのに今宵という今宵は皆何に疲れ切つたと言うのか。私にはわからない。だが語り合おうとする友はすでに私の前に,いや土曜会の中にはいない。
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