発行日 1951年11月15日
Published Date 1951/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906954
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星の美しい夜だ虫の聲がしきりにする。家々の窓に灯つていた燈も大分數がへり,廣い闇に數える程しかなくなつた。其の中の一つの燈の下で今,靜かに一つの事を考えているのが私。一ケ月程前の新聞紙上に,或病院の看護婦が藥を誤認して靜脈注射を施し,其の患者を死亡させた事件があり,業務上過失致死とかいう事で目下取調べ中であるとの記事がのつていて私達の心臟を寒からしめた。おそらく記事をよんだ凡ての人の眉をひそませおそろしい事だ,うつかり入院も出來ないと思わせた事と思う。この事件についてはまず(1)誤認の誤り(2)注射行爲の誤りの2つがある。誤認は不注意だという事は確かに言えるが,眞相によれば劇藥の標識がつけてなかつたというから間違い易いには相違ない。でも全く無記名だつたのではないのだから,藥を扱う注意としては,藥瓶の名札を器に藥を入れる前,入れてから瓶に蓋をしてからと前後3回は少くともよみ,正しいことを確認しなくてはならない筈で,この樣な注意は看護イロハである。從つて當該看護婦の不注意の責は免かれない。次に靜脈注射の問題だが,靜脈内といわず,皮下,筋肉内といわず元來注射行爲というものは看護婦業務であろうか。醫師法制定以來の長い歴史の間に,法律の條文にこそ注射は醫行爲であるとは書き現わしてはないが,其の教育内容に於て又社會通念というか,常識というかこれは醫行爲である事に誰一人疑をさしはさむ者はないのである。
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